University of Minnesota

 

すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約
訳 江橋崇
(出典:難民・外国人労働者問題キリスト者連絡会編『移住労働者の権利を宣言する!
-移住労働者の権利条約 条文・解説-』明石書店、1993年)
目次
前文
第1部 適用範囲と定義
第2部 差別なき権利の保障
第3部 移住労働者とその家族の基本的人権
第4部 正規に登録され、あるいは正規な法的地位にある移住労働者とその家族に認められる追加的な権利
第5部 特別の形態の移住労働者とその家族に関する規定
第6部 労働者とその家族の国際移住に関する、健全、公正、人道的かつ合法的な条件の整備
第7部 条約の適用
第8部 一般条項
第9部 最終規定
(注)この条約の翻訳に際しては、国際人権規約のように法典となって定訳があるものについてはそれに従った。

前文
 この条約の締約国は、
人権に関する国際連合の基本的な合意文書、とくに世界人権宣言、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際 条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、子どもの権利条約に盛られた基本原則を考慮し、
国際労働機関の枠組みのなかで形成された関連合意文書、とくに就業のための移住に関する条約(97号条約)、虐待の状況にある移住及び移住労働者の機会と処遇の平等保護に関する条約(143号条約)、就業 のための移住に関する勧告(86号勧告)、移住労働者に関する勧告(151号勧告)、強制労働に関する条約(29号条約)、強制労働の廃止に関する条約(105号条約)が明らかにした原則と水準を考慮し、
教育における差別を禁止する条約に含まれる原則の重要性を再確認し、
拷問及びその他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰を禁止する条約、犯罪防止及び犯罪人取り扱いに関する第四回国際連合会議宣言、法執行官のための行動綱領、奴隷制廃 止に関する諸条約を想起し、
さらに、国際労働機関(ILO)の掲げる目的のひとつが、自国以外の国において使用される場合における労働者の権利の保護であることと、移住労働者とその家族に関連する事項に関するこの機関の知識と経 験を想起し、
国際連合の組織のなかの諸機関、とくに人権委員会、社会開発委員会、及び、国連食糧農業機関(FAO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、世界保健機関(WHO)などの国際機関が、移住労働者とその家族に関して 実施してきた作業の重要性を認識し、さらに、いくつかの国々で、地域的合意ないし二国間合意を基礎に、移住労働者とその家族の権利保護に関して達成された成果と、この領域での二国間及び多国間の合意の重 要性と有用性を認識し、数百万名の人々を巻き込み、国際社会で多くの国家に影響を与えている移住現象の重大性と広がりを理解し、
 移住労働者の流れが関係国とその国民に与える衝撃を認識して、関係諸国が移住労働者とその家族の処遇に関する基本原則を受容することにより国家間の調和に寄与しうる規範の確立を希求し、さまざまな原 因、とくに出身国に居住しないこと及び就業国に滞在することから直面する困難が原因となって、移住労働者とその家族が攻撃を受けやすい状況にあることを考慮し、移住労働者とその家族の権利が十分には 認識されておらず、したがって適切な国際的保護が必要であることを確信し、移住は、家族の拡散を伴うので、移住労働者本人にとっても、またその家族にとっても、しばしば深刻な問題の原因になることを考 慮し、
移住に含まれる人道上の諸問題は、不正規の移住の場合に一層深刻であることに留意し、彼らの基本的な人権が保障されるとともに、移住労働者の密輸や運搬を妨げ、廃絶することを奨励する適切な行動がとられるべきことを確信し、
 正規に登録されていないか、不正規な地位にある移住労働者は、しばしば、他の労働者よりも不利な労働条件で働かされており、不公正な競争で利益を得ようとする一部の雇用者は、これのために不正規就労 を求めていることを考慮し、すべての移住労働者の基本的な人権がより広範囲に承認されれば、不正規な地位にある移住労働者の就労にたよることは思いとどまられるであろうこと、さらに、正規の移住労働者 とその家族にいくつかの権利を補充的に認めるならば、すべての移住者と雇用者がその国の法律と手続きを尊重して服従することを促進するであろうことを配慮して、それゆえに、普遍的に適用される包括的な 条約によって、基本となる規範を再確認して確立し、移住労働者とその家族の権利の国際的な保護を成し遂げることが必要であることを確信し、次のとおり協定した。

第1部 適用範囲と定義
第1条
1 この条約は、別に特段の定めがない限り、すべての移住労働者とその家族に対して、性、人種、皮膚の色、言語、宗教または信念、政治的意見その他の意見、国民的、宗教的または社会的出身、国 籍、年齢、経済的地位、財産、婚姻上の地位、出生または他の地位などのいかなる差別もなしに適用される。

2 この条約は、移住労働者とその家族について、移住の準備、出国、移動、就業国に滞在し有給の活動を行う間及び出身国または居住国への帰還を含む、移住のすべての期間に適用される。

第2条
 この条約の適用上、以下のように定める。
1 「移住労働者」とは、その者が国籍を有しない国で、有給の活動に従事する予定であるか、またはこれ に従事する者をいう。
2 (a)「越境労働者」とは、移住労働者で、その住所を隣国に保有して、通常は毎日、す
くなくとも毎週一度帰宅する者をいう。
(b)「季節労働者」とは、移住労働者で、仕事が季節の条件による性質を持ち、一年のうち限られた時期だけ就労する者をいう。
(c)「海員」とは、移住労働者で、雇用され、外国籍の船舶に乗船して就労する者をいい、これには漁業労働者も含まれる。
(d)「海上施設労働者」とは、移住労働者で、国籍を有しない国の管轄に属する海上施設に雇用された者をいう。
(e)「巡回労働者」とは、移住労働者で、いずれかの国に住所を持ち、仕事の性質上、短期間、その他の国々に出かける必要のある者をいう。
(f)「特定事業労働者」とは、移住労働者で、就業国によって、雇用者がその国で行う特定の事業に限って就労することで一定期間の入国を認められた者をいう。
(g)「特別就業者」とは、移住労働者で、
(i) 雇用者によって、限られた一定期間、就業国に派遣され、請け負った特定の職務または任務を行う者か、
(ii)限られた一定期間、専門職業、通商、技術またはその他 の専門的な高度の技能を必要とする仕事を行う者か、または、
(iii)就業国の雇用者の要求により、限られた一定期間、臨時的または短期的な仕事を行う者かであって、その滞在期間が満了するか、あるいはこれら の活動を行わないようになったときは出国することを求められている者をいう。
(h)「自営就業者」とは、移住労働者で、雇用契約によらずに有給活動に従事し、通常、単独であるいは家族とともに働いて生計を維持している者、及び、就業国の法律の適用ないし二国間または多国間条約によって自営就業と認められたその他の移住労働者をいう。

第3条
 この条約は以下の者には適用されない。
(a)国際機関に雇用されまたは国際機関から派遣された者、あるいは、管轄区域外で公務を行うためにいずれかの国に雇用されたかその国から派遣された者で、入国と在留資格について一般国際法ないし特定の国際取り決めまたは協定が規制している者
(b)いずれかの国ないしその国外での代表に雇用され、あるいはそれから派遣されて、開発計画その他の協力計画に参加する者で、入国と在留資格について就業国との取り決めで規制されており、その取り決めで移住 労働者とはみなされていない者
(c)投資家として出身国以外の国に住居を持つ者
(d)難民及び無国籍者。ただし、関連する条約、締約国の関係国内法または有効な国際合意文書によって適用が定められている場合を除く
(e)学生及び研修生
(f)海員及び海上施設労働者で、就業国に住居を定めること及び国内で有給活動を行うことを認められていない者

第4条 
この条約の適用上、「家族」とは、移住労働者と婚姻している者または法の適用上婚姻に等しい効力のある関係を持っている者、扶養する子ども、及び、その他の被扶養者で、関連する法または関係国 の二国間ないし多国間取り決めによって家族として認められる者をいう。

第5条 
 この条約の適用上、移住労働者とその家族は、
(a)就業国の法律及びその国が加盟している国際合意によって、入国、滞在、有給活動への従事が認められたときは、正しく登録された、あるいは正規な法律上の地位にあるものとみなされる。
(b)(a)項の条件を満たさないときは、正しく登録されていない、あるいは不正規な法律上の地位にあるものとみなされる。

第6条 
 この条約の適用上、
(a)「出身国」とは、移住労働者またはその家族が国籍を有する国をいう。
(b)「就業国」とは、移住労働者が、有給の活動に従事する予定であるか、従事しているか、かつて従事していた国をいう。
(c)「通過国」とは、移住労働者とその家族が、就業国への移動、あるいは就業国から出身国または通常の居住国への移動に際して通過する国をいう。

第2部 差別なき権利の保障
第7条
 この条約の締約国は、人権に関する国際合意文書に従い、領域内にあるか、その管轄権の下にあるすべての移住労働者とその家族に対して、性、人種、皮膚の色、言語、宗教または信念、政治的 意見その他の意見、国民的、宗教的または社会的出身、国籍、年齢、経済的地位、財産、婚姻上の地位、出生または他の地位などのいかなる差別もすることなく、この条約が保障する権利を尊重し、確 保する義務を負う。

第3部 移住労働者とその家族の基本的人権
第8条
1 移住労働者とその家族は、出身国も含めていずれの国からも自由に離れることができる。この権利は、いかなる制限も受けない。ただし、その制限が、法律で定められ、国の安全、公の秩序、 公衆の健康もしくは道徳または他の者の権利及び自由を保護するために必要であり、かつ、この条約の第3部で認められる他の権利と両立するものである場合は、この限りでない。

2 移住労働者とその家族は、いつでも出身国に入国し、居住する権利を有する。

第9条 
 移住労働者とその家族の生命に対する権利は、法律によって保護される。

第10条
 移住労働者とその家族は、拷問、または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱いもしくは刑罰を受けない。

第11条 
1 移住労働者とその家族を奴隷の状態に置くことは禁止される。
2 移住労働者とその家族は、強制労働に服することを要求されない。
3 本条2項は、犯罪に対する刑罰として、重労働を伴う拘禁刑を科することができる国において、権限のある裁判所による刑罰の言い渡しにより重労働をさせることを禁止するものと解してはならない。
4 本条の適用上、「強制労働」には次のものを含まない。
(a)作業または役務であって、本条3項で言及されておらず、かつ、裁判所の合法的な命令によって抑留されているものまたはその抑留を条件付きで免除されているものに通常要求されるもの
(b)社会の存立または福祉を脅かす緊急事態または災害の場合に要求される役務
(c)市民としての通常の義務とされる作業または役務で、その国の市民に課せられるもの

第12条 
1 移住労働者とその家族は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。この権利には、自ら選択する宗教または信念を受け入れまたは保持する自由並びに、単独でまたは他の者と共同して及び公にまたは私的に、礼拝、儀式、行事及び教導によって、その宗教または信念を表明する自由を含む。
2 移住労働者とその家族は、自ら選択する宗教または信念を受け入れまたは保持する自由を侵害するおそれのある強制を受けない。
3 宗教または信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳または他の者の基本的な人権及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる。
4 この条約の締約国は、いずれかあるいはいずれもが移住労働者である父母及び場合により法定保護者が、自己の信念に従って子どもの宗教的及び道徳的教育を確保する自由の尊重を約束する。

第13条 
1 移住労働者とその家族は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
2 移住労働者とその家族は、表現の自由についての権利を有する、この権利には、口頭、手書きもしくは印刷、芸術の形態または自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
3 本条2項の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的の ために必要とされるものに限る。
(a)他の者の権利または信用の尊重
(b)国の安全、公の秩序または公衆の健康もしくは道徳の保護
(c)戦争宣伝の禁止 
(d)差別、敵意または暴力の扇動となる国民的、人種的または宗教的憎悪の宣伝の禁止

第14条
 移住労働者とその家族は、その私生活、家族、住居、文書もしくはその他の通信に対して、恣意的にもしくは不法に干渉されまたは名誉及び信用を不法に攻撃されない。移住労働者とその家族 は、この干渉または攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

第15条
 移住労働者とその家族は、単独でまたは他の者と共同して所有する財産を恣意的に奪われることはない。就業国の国内法により、移住労働者とその家族の財産またはその一部が収用されるとき は、その者は公正で適切な補償を受ける権利を有する。

第16条 
1 移住労働者とその家族は、身体の自由及び安全についての権利を有する。
2 移住労働者とその家族は、公務員によるかまたは私人、私的集団または組織によるかに関わらず、暴力、傷害、脅迫及び威嚇に対して国家の効果的な保護を受けることができる。
3 法の執行にあたる官憲による移住労働者とその家族の同一人性確認の調査は、法律の定める手続きによって行われなければならない。
4 移住労働者とその家族は、単独にも集団的にも、恣意的に逮捕または抑留されることはなく、また、法律で定める理由及び手続きによらない限り、その自由を奪われない。
5 逮捕される移住労働者とその家族は、逮捕のときに、できる限りその者の理解できる言語で逮捕の理由を告げられるものとし、自己に対する被疑事実を速やかにその者の理解する言語で告げられる。
6 刑事上の罪に問われて逮捕されまたは抑留された移住労働者とその家族は、裁判官または司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利または釈放される権利を有する。裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、釈放にあたっては、裁判その他の司法上の手続きのすべての段階における出 頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる。
7 移住労働者とその家族が逮捕され、裁判係争中に刑務所ないし拘置施設に収容され、あるいはその他いかなる態様であれ身柄を拘束されているとき、
(a)その者の要求があれば、逮捕、抑留の事実とその理由が、出身国またはその利益を代表する国の領事館または外交使節団に遅滞なく伝えられる。
(b)その者は、外交使節団と通信する権利を有する。その者から外交使節団にあてられた通信は遅滞なく伝達されなければならず、また、その者は、外交使節団からの通信を遅滞なく受け取る権利を有する。
(c)その者は、外交使節団と通信し、その代表者と面会し、弁護人に関する協議を行う権利で、条約及び国家間協定で認められているものについて、遅滞なく告知される権利を有する。
8 逮捕または抑留によって自由を奪われた移住労働者とその家族は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうか遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続きをとる権利を有する。その者がこの手続きに参加し、そこで用いられる言語を理解することまたは話すことができない場合には、通訳人の援助を求める権利を有し、必要なときは費用は無償とする。
9 移住労働者とその家族は、違法に逮捕されまたは抑留されたときは、賠償を受ける権利を有する。

第17条 
1 自由を奪われた移住労働者とその家族は、人道的にかつ人間の固有の尊厳と文化的独自性を尊重して、取り扱われる。
2 起訴された移住労働者とその家族は、例外的な事情がある場合を除くほか、有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし、有罪の判決を受けていない者としての地位に相応する別個の取り扱いを受ける。少年の被告人は、成年とは分離されるものとし、できる限り速やかに、裁判に付される。
3 就業国または通過国で、移住に関する規定に違反して拘禁された者は、実行可能な限り、有罪の判決を受けた者または裁判を係争中の者から分離されるものとする。
4 裁判所が科した刑罰としての拘禁の執行中は、処遇の基本的な目的は移住労働者及びその家族の矯正及び社会復帰に置かれなければならない。少年の犯罪者は、成人とは分離されるものとし、その年齢及び法的地位に相応する取り扱いを受ける。
5 移住労働者とその家族は、抑留もしくは拘禁期間中、家族の面会に関してその国の国民と等しい権利を認められる。
6 移住労働者が身体の自由を拘束されている期間中は、権限ある当局は、その労働者の家族、特に配偶者及び未成年の子供にもたらされる問題に注意を払わなければならない。
7 就業国または通過国において効力を有する法律によって抑留または拘禁されている移住労働者とその家族は、同様の地位にある当該国の国民と同等な権利を有する。
8 移住労働者とその家族が、移住に関する法律の違反を立証するために拘束されたときは、その者は、拘束の費用を支払う義務を負わない。

第18条 
1 移住労働者とその家族は、裁判所の前に、その国の国民と平等とする。その者は、刑事上の罪の決定または民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。
2 刑事上の罪に問われている移住労働者とその家族は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。
3 移住労働者とその家族は、その刑事上の罪の決定について、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。
(a)その理解する言語で速やかに詳細にその罪の性質及び理由を告げられること
(b)防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること
(c)不当に遅延することなく裁判を受けること
(d)自ら出席して裁判を受け及び、直接にまたは自ら選任する弁護人を通じて、防御すること。弁護人がいない場合には、弁護人を持つ権利を告げられること。司法の利益のために必要な場合には、十分な支払手段を有しないときは自らその費用を負担することなく、弁護人を付されること
(e)自己に不利な証人を尋問しまたはこれに対して尋問させること並びに、自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること
(f)裁判所において使用される言語を理解することまたは話すことができない場合には、無料で通訳人の援助を受けること
(g)自己に不利益な供述または有罪の自白を強要されないこと
4 少年の場合には、手続きは、その年齢及びその更正の促進が望ましいことを考慮したものとする。
5 有罪の判決を受けた移住労働者とその家族は、法律に基づきその判決及び刑罰を上級の裁判所によって再審理される権利を有する。
6 移住労働者とその家族が確定判決によって有罪と決定された場合において、その後に、新たな事実または新しく発見された事実により誤審のあったことが決定的に立証されたことを理由としてその有罪の判決が破棄されまたは赦免が行われたときは、その有罪の判決の結果刑罰に服した者は、法律に基づいて補償を受ける。ただし、その知られなかった事実が適当な時期に明らかにされなかったことの全部または一部がその者の責めに帰するものであることが証明される場合には、この限りでない。
7 移住労働者とその家族は、その国の法律及び刑事手続きに従ってすでに確定的に有罪または無罪の判決を受けた行為について再び裁判されまたは処罰されることはない。

第19条 
1 移住労働者とその家族は、実行のときに国内法または国際法により犯罪を構成しなかった作為または不作為を理由として有罪とされることはないし、犯罪が行われたときに適用されていた刑罰よりも重い刑罰を科されない。犯罪が行われた後により軽い刑罰を科する規定が法律に設けられる場合には、罪を犯した者は、その利益を受ける。
2 移住労働者とその家族が犯した犯罪に刑罰を科すときには、その者の地位、とくに在留と就業の権利に対する人道的な配慮がなされなければならない。

第20条
1 移住労働者とその家族は、契約上の義務を履行することができないことのみを理由として拘禁されない。
2 移住労働者とその家族は、労働契約から生じる義務を履行することができないことのみを理由として、在留ないし就業の資格を奪われることはなく、また国外退去に処せられることはない。ただし、当該の義務の履行が在留または就業の要件とされている場合はこの限りでない。

第21条
 法律によって正式に権限を与えられた公務員以外の者が、身元を証明する書類、一国の領域への入国、滞在、居住、定住を認める書類または労働許可証を没収、破棄もしくは破棄しようとすることは違法である。これらの書類の押収が権限に基づいて行われるときは、詳細な受領証が交付される。いかなる場合においても、移住労働者とその家族の旅券もしくはそれに相当する書類を破棄することは許されない。

第22条 
1 移住労働者とその家族に対する集団的追放の措置は禁止される。追放は個々に審理され、決定されなければならない。
2 移住労働者とその家族は、権限ある当局が法律に従って行う決定によってのみこの条約の締約国の領域から追放される。
3 追放の決定はその者の理解する言語で伝えられなければならない。その者が要求するときは、決定は書面で伝えられ、国家の安全による例外的な場合以外には、決定の理由も述べられなければならない。これらの権利については、決定以前に、遅くとも決定のときに、関係者に告知されるものとする。
4 司法当局による最終判断であるときを除いて、関係者は、自己に対する追放処分に反対する理由を述べ、権限ある機関に自己の主張を審査させる権利を有する。ただし、国家の安全に関して、やむにやまれぬ理由から別異に取り扱われる場合はこの限りでない。その者は、審査の期間中、追放の決定の執行停止を求める権利を有する。
5 執行の終わった追放処分が後に取り消されたとき、その者は法律に基づき補償を請求する権利を有する。以前の決定は、その者が当該の国に再入国することを妨げる理由に使われてはならない。
6 追放の場合には、関係者には、出国の前または後に、賃金その他その者に帰すべきものに関する主張または未処理の義務を解決するための適切な機会が与えられる。
7 追放の決定の執行を害することのない範囲で、対象となった移住労働者またはその家族は、出身国以外の国への入国を求めることができる。
8 移住労働者またはその家族が追放される場合に、それに要する費用を当該の移住労働者に負担させてはならない。ただし、関係者の移動に要する費用の自弁を求めることは許される。
9 就業国からの追放は、賃金請求権ないしその者に帰すべき他の権利を含め、移住労働者又はその家族が当該の国の法律に従って獲得したいかなる権利も損なうものではない。

第23条
 移住労働者とその家族は、この条約が認めた権利が損なわれたときには、出身国ないしその国の利益を代表する国の領事館または外交使節団の保護と援助を依頼する権利を有する。とくに、追放の場合は、この権利について関係者に遅滞なく告知がなされ、追放する国の当局はこの権利の実現に便宜をはからなければならない。

第24条
 あらゆる移住労働者とその家族は、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有する。

第25条 
1 移住労働者は、報酬及び以下の点で、就業国の国民に適用される待遇よりも不利に扱われることはない。
(a)他の労働条件、すなわち、超過勤務、労働時間、週休、有給休暇、安全、保健、雇用関係の終了その他その国の法律と慣行で労働条件に含まれるとされているもの
(b)他の就労の条件、すなわち、就労の最低年齢、在宅勤務その他その国の法律と慣行で就労の条件に含まれるとされているもの
2 私的な雇用契約で本条一項にいう平等処遇の原則を逸脱することは違法である。
3 締約国は、移住労働者が、その滞在または就業が不正規であることを理由に、平等処遇原則から導かれるいかなる権利をも奪われることのないよう、あらゆる適切な措置をとらなければならない。とくに、雇用者が、この不正規性を理由にして、法律上及び契約上の義務の履行を免れたり限定したりすることは禁止されるものとする。

第26条
1 締約国は、移住労働者とその家族の以下の権利を認める。
(a)労働組合、及び、法律に従い自らの経済的、社会的、文化的その他の利益を保護するために法律に基づいて設立された組織の集会及び活動に参加する権利
(b)労働組合その他の組織に加入する権利
(c)労働組合その他の組織の援助及び支援を求める権利
2 1項に定める権利に対しては、国家の安全、公の秩序、他の者の権利及び自由の保護のため、民主主義社会において必要であり、法律に定められている制限以外にはいかなる制限も課することができない。

第27条 
1 社会保障について、移住労働者とその家族は、就業国で適用される法律及び二国間ないし多国間条約の規定する要件を満たすときは、就業国の国民に認められているものと等しい処遇を受けるものとする。出身国と就業国の所管官庁は、本項の適用方式を決定するためにいつでも必要な取り決めを行うことができる。
2 国内法により、移住労働者とその家族に対する給付が認められていないときは、その国は、同様の地位にある国民に認められている処遇を基礎にして、その者の行った拠出相当額を償還する可能性を検討しなければならない。

第28条 
 移住労働者とその家族は、その国の国民と平等に処遇されることを基本にして、生命の維持と回復しがたい健康被害の防止のために緊急に必要とされる医療を受ける権利を有する。救急医療は、その者の在留または就業が不正規であるという理由で拒絶されてはならない。

第29条
 移住労働者の子どもは、氏名、生誕の登録、国籍に対する権利を有する。

第30条
 移住労働者の子どもは、その国の国民と平等な処遇を基礎に教育を受ける基本的な権利を有する。その者の公立幼稚園及び学校への入学の要求は、両親のいずれかの在留ないし就業が不正規であることまたは就業国でのその子どもの在留が不正規であることを理由に拒否されてはならない。

第31条 
1 締約国は、移住労働者とその家族の文化的独自性の尊重を確保する措置をとると共に、その者たちが出身国との文化的なつながりを維持することを妨げてはならない。
2 締約国は、この努力を助長し、促進させる適切な措置をとる。

第32条
 移住労働者とその家族は、就業国での在留が終了したときに、所得、貯蓄及び、国内法に従うことを条件として、家財及び所持品を移送する権利を有する。

第33条 
1 移住労働者とその家族は、以下の事項に関して、出身国、就業国、通過国のうちの関係 する国から、情報の告知を受ける権利を有する。
(a)この条約により生じる権利
(b)その国における入国の条件、その者の権利と義務、法律と慣行並びにその者が行政手続きその他の手続きに従うことを可能にするためのその他の事項
2 締約国は、前項の情報の普及または雇用者、労働組合及びその他の適切な団体や組織による情報提供を確保するのにふさわしいあらゆる措置をとらねばならない。適切な場合には、他の関係国と協力するものとする。
3 移住労働者とその家族が要求したときは、適切な情報が無償で与えられなければならず、可能な限り、その者の理解できる言語で提供されるものとする。

第34条
 この条約の本第3部のいかなる規定も、移住労働者とその家族が通過国と就業国の法と規則に従う義務またはそれらの国の住民の文化的独自性を尊重する義務を免除するものではない。

第35条 
 この条約の本第3部のいかなる規定も、正規に登録されていないか、不正規な状態にある移住労働者とその家族の地位を合法化するものまたはそうする権利を認めるものと解釈されてはならず、また、この条約の第6部で定める健全で公正な国際的移住環境を確保する措置を害してはならない。
第4部 正規に登録され、あるいは正規な法的地位にある移住労働者とその家族に認められる追加的な権利
第36条
 就業国で正規に登録され、あるいは正規な法的地位にある移住労働者とその家族は、この条約の第3部で定められた諸権利に加えて、本第4部で定める諸権利も享受するものとする。

第37条
 移住労働者とその家族は、出身国を離れる前に、または遅くとも就業国への入国のときに、入国に際して適用されるすべての条件、とくに滞在、その者が従事することの認められた有給の活動に関する条件、就業国で満たさなければならない必要条件及びこれらの条件の変更を申告すべき当局に関する情報について、出身国または就業国から、十分な教示を受ける権利を有する。

第38条 
1 就業国は、事情次第では、移住労働者とその家族に、在留と就業の資格に影響しない一時出国が認められるよう、あらゆる努力をしなければならない。その際には、就業国は、出身国における移住労働者とその家族の要求と義務を考慮すべきものとする。
2 移住労働者とその家族は、こうした一時出国が認められる範囲について十分に告知を受ける権利を有する。

第39条 
1 移住労働者とその家族は、就業国の領域内において、移動の自由と居住地を選択する自由を有する。
2 本条一項の権利は、いかなる制限にも服さない。ただし、その制限が法律で定められ、国家の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳または他の者の権利及び自由を保護するために必要であり、この条約で認められた他の権利と矛盾しないものである場合は、この限りでない。

第40条 
1 移住労働者とその家族は、自らの経済的、社会的、文化的及びその他の権利を促進し保護するために、就業国で労働組合その他の団体を結成する権利を有する。
2 本条1項の権利は、いかなる制限にも服さない。ただし、その制限が法律で定められ、民主主義社会で国家の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳または他の者の権利及び自由を保護するために必要なものである場合はこの限りでない。

第41条 
1 移住労働者とその家族は、出身国の法律に従い、その国の公共の事項に参加し、その国の選挙の際に選挙権、被選挙権を行使する権利を有する。
2 関係国は、法律に従ってかつ適切に、これらの権利の実行を促進する義務を負う。

第42条 
1 締約国は、移住労働者とその家族に特有の要求、念願、義務を考慮すべきものとする。この場合、締約国は、移住労働者とその家族がこの制度において、自由に選挙された代表者を持ちうることを正しく予測すべきである。
2 就業国は、国内法に従い、地域社会の生活及び運営に関する決定に際して、移住労働者とその家族と協議し、またはその参加を促進すべきである。
3 移住労働者は、就業国の国家の主権による決定として権利を付加される限りにおいて、この国における政治的な権利を享有する。

第43条 
1 移住労働者は、以下のものの利用、参加について、就業国の国民と平等に処遇されるものとする。
(a)教育施設及び教育事業。これは当該施設及び事業の入学要件及びその他の規則に従うことを条件とする
(b)職業指導及び職業紹介事業
(c)職業訓練及び再訓練の施設及び制度
(d)住宅。これは、社会住宅計画及び不当に高額な家賃からの保護を含む
(e)社会、保健事業。これは当該事業の参加資格に適合することを条件とする
(f)協同組合事業及び自主管理事業。これは移住者の地位の変更を意味するものではない。また、当該団体の定める規則に従うことを条件とする
(g)文化活動事業
2 締約国は、就業国によって認められた在留資格が適切な条件を満たしているときに移住労働者が本条1の定める権利を享受できるように、平等な処遇が効果的に確保される条件を伸長すべきものとする。
3 就業の法的状態にかかわらず、雇用者は、移住労働者のために住宅計画、社会、文化的な施設を設置することができる。就業国は、この条約70条の規定に従って、この種の施設の設置に際して、その設備を国内で一般に適用される条件に従ったものにさせることができる。

第44条 
1 締約国は、家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有することを認め、移住労働者の家族の同居の保護を確実にするために適切な措置をとるものとする。
2 締約国は、移住労働者と、その配偶者、法律の適用上婚姻に等しい扱いを受ける関係にある者及び未成年で扶養を要する独身の子どもとの同居の再現を促進するために、その権限に属する適切な措置をとるものとする。
3 就業国は、その他の家族についても、人道的な見地から、本条2項で定めたものと等しい措置をとるよう、好意的に配慮するものとする。

第45条 
1 移住労働者の家族は、以下のものの利用、参加について、就業国の国民と平等に処遇されるものとする。
(a)教育施設及び教育事業。これは当該施設及び事業の入学要件及びその他の規則に従うことを条件とする
(b)職業指導並びに職業訓練施設及び制度。これは参加資格に適合することを条件とする
(c)社会、保健事業。これは当該事業の参加資格に適合することを条件とする
(d)文化活動事業
2 就業国は適切な場合は出身国と協力して、移住労働者の子どもが地域の学校に入学し、とくに地域の言語を学ぶことを容易にする政策を遂行することとする。
3 就業国は、移住労働者の子どもに対する母語及び出身国の文化の教育を促進するよう努力し、出身国は適切な場合いつでもこれに協力するものとする。
4 就業国は、必要なときは出身国の協力を得て、移住労働者の子ども向けに、母語による特別教育過程を設けることができる。

第46条 
 移住労働者とその家族は、関係国の法律、関連する国際的な合意及び関税同盟への参加から生じる義務に従うことを条件に、その家財と所持品及び就業国が認めた有給の活動の遂行に必要な道具類について、以下の場合に輸出入の税を免除される。

(a)出身国または通常の居住国からの出国のとき

(b)就業国への一回目の入国のとき

(c)就業国からの最終的な出国のとき

(d)出身国または通常の居住国への帰国のとき

第47条 
1 移住労働者とその家族は、その収入及び貯蓄、とくに家族の扶養に必要な資金を、就業国から出身国またはその他の国に送金する権利を有する。送金は、その国の国内法の手続き及び国際合意に従って行われる。
2 関係国は、送金を簡略にする適切な手段を講じる。

第48条 
1 移住労働者とその家族は就業国における収入に関して、二重課税の取り決めを害さない範囲で、以下のように扱われるものとする。
(a)いかなる種類のものであれ、同じ状態にあるその国の国民よりも高額であるか、負担がより厳しい課税は行われない。
(b)いかなる種類のものであれ、税の減免を受ける。また、家族の扶養のための控除を含め、同じ状態にあるその国の国民に認められる控除を受ける。
2 締約国は、移住労働者とその家族の収入及び貯蓄に対する二重課税を回避するために、適切な措置をとる努力を行う。

第49条 
1 国内法により、在留と就業に別個の許可を要する就業国は、移住労働者の在留期間を最短でも有給活動の期間と等しくして許可しなければならない。
2 就業国で有給の活動を選択する自由が認められている移住労働者は、就業期間の満了以前に有給の活動が終了したという理由だけで、不正規な法的地位にあるものないし在留資格を失ったものとみなされることはない。
3 本条2項の移住労働者に、他の有給活動への求職活動に十分な時間を与えるため、在留を扱う当局は、すくなくとも失業給付の受給資格がある間は、在留資格を取り消してはならない。

第50条 
1 移住労働者が死亡しまたは婚姻を解消したときには、就業国は、その移住労働者の家族で、家族の同居の再現を基礎に在留していた者の在留許可について好意的に配慮するものとする。その際に、就業国はその者がすでに在留している期間を考慮に入れなければならない。
2 前項の在留許可が認められなかった家族の場合には、出国の前に処理すべき事柄を行うのに必要な合理的な期間の時間的余裕が認められなければならない。
3本条1,2項の規定は、就業国の国内法または二国間ないし多国間の条約で、このような家族に認められている在留または就業の権利を害するものとして解釈されてはならない。

第51条
 移住労働者で、就業国における有給活動の選択の自由が認められていないものは、就業期間の満了以前に有給の活動が終了したという理由だけで、不正規な法的地位にあるものないし在留資格を失ったものとみなされることはない。ただし、在留の許可が、特定の有給活動にかかることが明示されているときはこの限りでない。その就業を認められた期間内は、こうした移住労働者は、就業の許可に際して特定されている条件と制限の範囲内で、転職、公の失業対策事業ないし職業再訓練への参加を求めることができる。

第52条 
1 移住労働者は、次項以下に定める条件と制限の範囲内で、就業国においてその有給の活動を選択する自由を有する。
2 就業国は、いかなる移住労働者に対しても、以下を行うことができる。
(a)国内法で定められた、国家の利益のために必須な特定の範囲の就業、職能、労務、作業への進出の制限
(b)国外で取得された職業上の資格の承認に関する立法による、有給活動の選択の自由の制限
3 就業国は、就業の許可が期限つきである移住労働者に対しては、さらに以下を行うことができる。
(a)その移住労働者がすでに一定期間有給の活動を行う目的で合法的に国内に滞在してきたときに限って、有給活動の選択の自由を認めること。ただしこの期間は国内の法令で定められ、かつ、最長で2年を越えてはならない。
(b)自国の国民または国内法または二国間もしくは多国間の合意によって同等に扱われる者に優先権を与える政策を遂行するために、移住労働者の有給活動への進出を制限すること、この制限は、一定期間有給の活動を行う目的で合法的に国内に滞在してきた移住労働者に課してはならない。なお、この期間は、国内の法令で定められ、かつ、最長で五年を越えてはならない。
4 就業国は、就労してきた移住労働者が自営で就業することを認められる場合及びその逆の場合について、許可の条件を定める。その際は、移住労働者の国内での合法的な就労の実績が考慮されるべきものとする。

第53条 
1 移住労働者の家族で、その者自身が無期限または自動延長の可能な入国または滞在の許可を得ている場合は、その者は有給の活動に関して、この条約の52条によって移住労働者に課せられるものと同じ条件で自由に選択することが認められる。
2 移住労働者の家族で、有給活動の自由な選択権が認められていない者の場合は、締約国は、二国間または多国間の合意の範囲内で有給の活動に従事する許可を与える。締約国は、その際に他の労働者に優先して許可するよう、有利に考慮するものとする。

第54条 
1 在留と就業許可の規定するところ及びこの条約の25条、27条で定める権利を損なうことなく、移住労働者は、以下の点で就業国の国民と平等に処遇されるものとする。
(a)解雇からの保護
(b)雇用保険
(c)失業対策事業への参加
(d)この条約の52条の範囲内で、失業ないし就業終了の際の転職
2 労働契約の条項が雇用者によって侵害されていると移住労働者が苦情をいだく場合には、この条約の18条1項の規定するところにより、就業国の権限ある当局に申し立てることができる。

第55条
 有給の活動を許可された移住労働者は、許可条件の範囲内で、その有給活動の遂行に関して就業国の国民と平等に処遇されるものとする。

第56条 
1 この条約の本第4部にいう移住労働者とその家族は、就業国から追放されることはない。ただし、その追放が、国内の法令で明示され、条約第3部の定める保護の規定に従って行われる場合はこの限りではない。
2 移住労働者またはその家族の在留ないし就業の許可から生じる権利を剥奪するために追放の手段に訴えることは禁止される。
3 移住労働者またはその家族の追放の是非を決定する際には、人道的な見地と、その者が就業国に滞在した期間の長さが考慮されるものとする。

第5部 特別の形態の移住労働者とその家族に関する規定
第57条
 この条約の本第5部でとくに規定される特別の形態の移住労働者とその家族で、正規に登録されまたは正規な法的地位にある者は、条約の第3部で定められた権利と、次条以下の修正を含む第4部で定められた権利を享受する。

第58条 
1 この条約の2条2項(a)にいう越境労働者は、条約の第4部に定める権利のうち、その者の就業国の領域内での居住と労働に適用しうるものを享受する。その際には、その者が就業国に住所を持っていないことが考慮されるものとする。
2 就業国は、越境労働者が一定期間の後に有給活動を選択する自由を承認するよう好意的に考慮する。この権利の承認がその者の越境労働者としての地位に変動を及ぼすことはない。

第59条 
1 この条約の2条2項(b)にいう季節労働者は、条約の第4部に定める権利のうち、その者の就業国での居住と労働に適用しうるもので、季節労働者としての在留資格に適合するものを享受する。その際には、その者が就業国に年間の一部だけ居住する者であることが考慮される。
2 締約国は、本条1項の規定の範囲内で、長期間その領域内で就労してきた季節労働者が他の有給活動に従事することを認め、二国間及び多国間の合意の範囲内で、入国の申請に対し、他の労働者よりも優遇する。

第60条
 この条約の2条2項(e)にいう巡回労働者は、条約の第四部に定める権利のうち、その者の就業国の領域内での居住と労働に適用しうるもので、巡回労働者としての在留資格に適合するものを享受する。

第61条 
1 この条約の2条2項(f)にいう特定事業労働者とその家族は、条約の第4部に定められた権利を保障される。ただし、43条1項(b)及び(c)、43条1項(d)のうち社会住宅計画に関する部分、45条1項(b)及び52条より55条までの権利はこの限りでない。
2 特定事業労働者が、その者の労働契約の条項が雇用者によって守られていないと苦情をいだくときは、この条約の18条1項で定めるところにより、当該の雇用者を管轄する国の権限ある当局に申し立てる権利を有する。
3 締約国は、適用すべき二国間合意に従って、特定事業労働者がその事業で就労している間、出身国または通常の居住国の社会保障で適切に保護されうるように努力する。締約国は、この点で、権利の否定または支給の重複が起きないよう適切な措置をとるものとする。
4 この条約の47条の規定及び二国間ないし多国間の合意に反しない範囲で、就業国は、特定事業労働者の賃金を出身国ないし通常の居住国において支払うことを認めることができる。

第62条 
1 この条約の2条2項(g)にいう特別就業者は、条約の第4部に定められた権利を保障される。ただし、条約43条1項(b)及び(c)、43条1項(d)のうち社会住宅計画に関する部分、52条、54条1項(d)はこの限りでない。
2 特別就業者の家族は、条約の第四部に定める権利のうち移住労働者の家族に関するものを保障される。ただし、53条の規定はこの限りでない。

第63条 
1 この条約の2条2項(h)にいう自営就業者は、条約の第4部に定められた権利を保障される。ただし、雇用者と労働契約を行う労働者にのみ適用されるべき権利は除外される。
2 この条約の52条及び57条の規定を害しないときには、自営就業者の経済活動の終了は、その者とその家族に対する就業国での滞在及び経済活動の許可の取り消しを意味しない。ただし、その者の在留が特定の有給活動と結びついていることが明らかであるときはこの限りでない。

第6部 労働者とその家族の国際移住に関する、健全、公正、人道的かつ合法的な条件の整備
第64条 
1 締約国は、この条約の79条の規定にもかかわらず、労働者とその家族の国際移住の健全、公正かつ人道的な条件を整備する観点から適宜に協議し、協力するものとする。
2 前項の協議、協力に際しては、労働力の需要と資源の面だけを考慮することなく、移住労働者とその家族が社会的、経済的、文化的その他の面で必要とするもの、及び、移住が関連地域に及ぼす影響も適切に配慮されるものとする。

第65条 
1 締約国は、労働者とその家族の国際移住に関する問題に対処するための適切な事業を行う。この事業の職務には以下のものが含まれる。
(a)この種の移住に関する政策を策定し実施すること
(b)この種の移住問題に巻き込まれている締約国の権限ある当局と、情報交換、協議及び協力を行うこと
(c)国際移住及び就業に関する政策、法律、規則、他国との合意及びその他の関連する事項について適切な情報を提供すること、とくに雇用者、労働者及びその組織に提供すること
(d)移住労働者とその家族が出国、移動、到着、滞在、有給の活動、出国と帰国に際して必要とする許可、手続き、準備及び就業国における労働と生活の条件、関税、通貨、税金並びにその他の関係法律に関して、その者に情報を提供し適切に支援すること
2 締約国は、移住労働者とその家族が社会的、文化的、及びその他の面で必要とするものに見合った領事館その他の業務が容易に行われるよう適切な措置をとるものとする。

第66条 
1 外国で就労する労働者を募集する見地からの業務を行う権利は、以下の者に限って認められる。
(a)この業務をとり行う公営の公共事業または機関
(b)関係国間の合意に基づく、就業国の公共事業または機関
(c)二国間または多国間の合意によって設立された機関
2 関係する締約国の法律と慣行に基づいて設立され、当局による許可、承認及び監督を受けている斡旋業者、準備段階にある雇用者またはその代表者は、この業務を行うことが許される。

第67条 
1 移住労働者とその家族が、帰国することに決したか、在留または就業の許可が満期になったか、あるいは就業国で不正規な法的地位になったときに、彼らの出身国への帰還が秩序をもって行われる方法をとることで、関係する締約国は適宜に協力すべきものとする。
2 正規な法的地位にある移住労働者とその家族に関しては、関係する締約国は、その者が出身国で安定した居住を再現するのに適当な経済環境を助長し、出身国での社会、文化面での永続的な統合の再現を促進する観点から、関係国間で合意に達したところに従い、適宜に協力すべきものとする。

第68条 
1 締約国は通過国も含めて、不正規な法的地位にある移住労働者の不法ないし秘密裏の移動と就業を防止し、根絶するために、協力するものとする。この目的のために、各国がその管轄のなかでとる手段には、以下のものが含まれる。
(a)移住や移民に関して人を誤導する情報を流布する行為に対する適切な手段
(b)移住労働者とその家族の不法または秘密裏の移動を発見し根絶するとともに、このような移動を組織し、遂行し、あるいはそれを幇助する個人、集団、存在に効果的に制裁を加えるための手段
(c)不正規な法的地位にある移住労働者とその家族に、暴力、脅迫、威嚇を加える個人、集団、存在に効果的な制裁を加えるための手段
2 就業国は、その領域内にいる不正規な法的地位の移住労働者による就労を根絶するのに適切で効果的であれば、どのような手段でもとるべきものとする。適切な場合は、雇用者の処罰もこれに含まれる。ただし、この種の手段の使用は、移住労働者が雇用者に対して持っている権利を害するものではない。

第69条 
1 締約国は、その領域内に不正規な法的地位の移住労働者とその家族が居住するときは、その状態が持続しないように適切な措置をとる。
2 関係締約国が、国内法及び二国間または多国間の合意に基づいてその者の立場を合法化する可能性を考慮するときには、その者の入国の周辺の事情、在留の期間その他関連する考慮されるべき事情、とくにその家族の状態に関する事情に適切な配慮が加えられなければならない。

第70条
 締約国は、正規な法的地位にある移住労働者とその家族の労働と生活の条件が、適切、安全、健康の基準、及び人間の尊厳性の原則を保持するよう、自国民に適用されるものを下回らない好意的な措置をとるものとする。

第71条 
1 締約国は、必要なときには、死亡した移住労働者またはその家族の遺体を出身国に返還する便宜をはかる。
2 移住労働者またはその家族の死亡に対する補償問題については、締約国は、問題が早急に解決するように関係者に適切な支援を与えるものとする。補償問題の解決は、国内法、この条約及び関連する二国間または多国間の合意に従ってなされるべきものとする。

第7部 条約の適用
第72条
1(a)この条約の適用を審査するために、すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
 (b)委員会は、この条約が効力を生じたときは10名の、41番目の締約国で効力を生じた後は、14名の、徳望が高く、公正で、かつ、この条約が対象とする分野において十分な能力を有する専門家で構成する。
2(a)委員会の委員は、委員の配分が地域的に衡平に、とくに出身国と就業国の間で衡平に行われること及び主要な法形態が代表されることを考慮に入れて、締約国により選挙のために指名された者の名簿の中から、締約国による秘密投票により選出される。各締約国は、自国民の中から1名を指名することができる。
 (b)委員会の委員は、個人の資格で選挙され及び職務を遂行する。
3 委員会の委員の最初の選挙は、この条約が効力が生じた日の後6ヶ月以内に行い、以後は2年ごとに行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも四ヶ月前までに、締約国に対し、委員会の委員に指名された者の氏名を2ヶ月前までに提出するよう書面で要請する。事務総長は、指名された者のアルファベット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、名簿を各選挙の遅くとも1ヶ月前までに、指名された者の経歴を添付して、締約国に送付する。
4 委員会の委員の選挙は、国際連合事務総長により国際連合本部に招集される締約国会議において行う。この会合は、締約国の3分の2をもって定足数とする。この会合においては、出席しかつ投票する締約国代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た指名された者をもって委員会に選出された委員とする。
5(a)委員会の委員は4年の任期で職務を遂行する。ただし、最初の選挙で選出された委員のうち5名の委員の任期は、2年で終了するものとし、この5名の委員は、最初の選挙の後直ちに、その選挙を行った締約国会議の議長によりくじ引きで選ばれる。
 (b)委員会の4名の追加的な委員の選挙は、この条約が41番目の締約国で効力を生じた後に、本条2、3及び4項の規定に従って行う。このときに選出された追加的な委員のうち2名の委員の任期は、2年で終了するものとし、この2名の委員は、その選挙を行った締約国会議の議長によりくじ引きで選ばれる。
(c)委員は、再度指名された場合には、再選される資格を有する。
6 委員会の委員が死亡し、辞任し、またはその他の理由で委員会の職務を遂行することができない旨を宣言したときは、その専門家を指名した締約国は、その残余の任期につき、自国民の中から他の専門家を任命する。この新規の任命は委員会によって承認されなければならない。
7 国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供する。
8 委員会の委員は、国際連合総会が決定する条件に従い、国際連合の財源から報酬を受ける。
9 委員会の委員は、国際連合の特権及び免除に関する条約の関連規定で規定される国際連合のための職務を行う専門家の便益、特権及び免除を享受する。

第73条 
1 締約国は、次の場合に、この条約の実施のためにとった立法上、司法上、行政上及びその他の措置に関する報告を、委員会による検討のため、国際連合事務総長に提出することを約束する。
(a)当該締約国についてこの条約が効力を生じるときから1年以内
(b)その後は5年ごと及び委員会が要請するとき
2 報告には、この条約の実施に影響を及ぼす要因及び障害が存在する場合には、これらの要因と障害を記載する。報告には、また、当該の締約国が巻き込まれている国際移住の移動の性格に関する情報を併せて記載するものとする。
3 委員会は、報告の内容に関して、ここに定めるもの以外の準則を決定する。
4 締約国は、自国の報告を、国内において公衆が広く利用できるようにする。

第74条 
1 委員会は締約国の提出する報告を審査し、適当と認める意見をその国に送付する。その国は、本条に基づいて委員会が行った意見に対する見解を提示することができる。委員会は、報告に関して締約国に情報の追加を要請することができる。
2 国際連合事務総長は、委員会の定例の会議が開催される以前の適切な時期に、締約国が提出した報告の写しと報告の検討に関連する情報を国際労働機関の事務総長に送付し、国際労働機関の事務局が、機関の権限領域に属し、かつこの条約が取り扱っている事項について、専門知識をもって委員会を援助できるようにするものとする。
3 国際連合事務総長は、さらに、委員会との協議の後、報告に含まれる事項のうち、いずれかの専門機関または国際機関の権限の範囲に含まれるものの写しを当該専門機関または国際機関に送付することができる。
4 委員会は、専門機関、国際連合の諸機関、政府間機関その他の関連する機関に要請し、その機関の活動分野に属し、かつこの条約が扱っている事項について、委員会における検討のために、書面で情報を提出するよう求めることができる。
5 委員会は、国際労働機関に対して、協議資格をもって委員会の会議に参加する代表を任命するよう要請するものとする。
6 委員会は、特定の専門機関、国際連合の諸機関ないし政府間機関に対して、その機関の権限領域に関する事項を委員会が検討する際には、出席して聴聞に応じるよう要請するものとする。
7 委員会は、この条約の実施状況について国際連合総会に年次報告書を提出する。報告書は、締約国から提出された報告と意見にとくに基礎を置いて、委員会による考察と勧告を含むものとする。
8 国際連合事務総長は、委員会の年次報告書を、この条約の締約国、国際連合の経済社会理事会及び人権委員会、国際労働機関事務総長及びその他の関連諸機関に送付する。

第75条 
1 委員会は手続規則を採択する。
2 委員会は、役員を2年の任期で選出する。
3 委員会は原則として毎年会合する。
4 委員会の会合は、原則として国際連合本部において開催する。

第76条 
1 この条約の締約国は、この条約に基づく義務が他の締約国によって履行されていない旨を主張するいずれかの締約国からの通報を受理しかつ検討する権限を委員会が有することを認めることを、本条の規定に基づいていつでも宣言することができる。本条の規定に基づく通報は、委員会の当該権限を自国について認める宣言を行った締約国による通報である場合に限り、受理しかつ検討することができる。委員会は、宣言を行っていない締約国についての通報を受理してはならない。本条の規定により受理される通報は、以下の規定に従って取り扱う。
(a)締約国は、他の締約国がこの条約に基づく義務を履行していないと認める場合には、書面の通報により、その事案について当該の締約国の注意を喚起することができる。この締約国は、また、事案を委員会に通報することが認められる。通報を受理した国は、受理の後3ヶ月以内に、当該事案について説明する文書その他の文書を、通報を送付した国に提供する。これらの文書は、当該事案について既にとられたか、現在とっておりまたは将来とることができる国内的な手続き及び救済措置に、可能かつ適当な範囲において、言及しなければならない。
(b)最初の通報の受領の後6ヶ月以内に当該事案が関係締約国の双方の満足するように調整されない場合には、いずれの一方の締約国も、委員会及び他方の締約国に通告することにより当該事案を委員会に付託することができる。
(c)委員会は、付託された事案について利用し得るすべての国内的な救済措置がとられかつ尽くされたことを確認した後に限り、一般的に認められた国際法の原則に従って、付託された事案を取り扱う。ただし、救済措置の実施が不当に遅延する場合は、この限りでない。
(d)本項(c)の規定に従うことを条件として、委員会は、この条約の定める義務の尊重を基礎として事案を友好的に解決するため、関係締約国に対して斡旋を行う。
(e)委員会は、本条により審査を行う場合には、非公開の会合を開催する。
(f)委員会は、本項(b)に基づいて付託されたいずれの事案についても、本項(b)にいう関係締約国に対し、あらゆる関連情報を提供するよう要請することができる。
(g)本項(b)にいう関係締約国は、委員会において事案が検討されている間は代表を出席させる権利を有するものとし、また、口頭及び/または書面により意見を提出する権利を有する。
(h)委員会は、本項(b)の通報を受理した日の後12ヶ月以内に、報告を提出する。
  (i)本項(b)の規定による解決に到達した場合には、委員会は、事実及び到達した解決について簡潔に記述したものを報告する。
  (ii)本項(d)の規定による解決に到達しない場合には、委員会は、関係締約国間での論争に関連する事実を指摘するものとする。当該報告に関係締約国の口頭による意見の記録及び書面による意見を添付する。委員会は、関連締約国に限って、論争点と関連すると思われる見解を通知することができる。
 いずれの事案でも、報告は関係締約国に通知される。
2 本条の規定は、この条約の締約国のうち10ヶ国が一項の規定に基づく宣言を行ったときに効力を生じる。宣言は、締約国が国際連合事務総長に寄託するものとし、事務総長は、その写しを他の締約国に送付する。宣言は、事務総長に対する通告によりいつでも撤回することができる。撤回は、本条の規定に従ってすでに送付された通報によるいかなる事案の検討をも妨げるものではない。事務総長が宣言の撤回の通告を受領した後は、当該締約国が新たな宣言を行わない限り、他のいかなる締約国による通報も受理しない。

第77条 
1 締約国は、その管轄下にある個人またはその利益を代表する者で、この条約に定めるいずれかの個人的な権利がその締約国によって侵害されたと主張する者からの通報を、委員会が受理し、かつ、検討する権限を有することを認める旨の宣言を、本条に基づき、いつでも行うことができる。委員会は、この宣言を行っていない締約国に関するいかなる通報も受理してはならない。
2 委員会は、本条に基づく通報であって匿名のもの、または通報提出の権利の濫用でありもしくはこの条約の規定に抵触すると考えるものはすべて、受理することができないと宣言する。
3 委員会は、次のことを確認した場合を除き、個人からのいかなる通報も検討しない。
    (a)同一の問題が他の国際的調査または解決の手続きの下で審議されていないこと。
    (b)当該個人が利用し得るすべての国内的救済措置を尽くしたこと。これは、委員会が、救済措置の適用が不当に延引しているか、または、当該個人に対する効果的な救済をもたらずのが困難であると判断した場合には、適用しない。
4 本条2項の規定に従うことを条件として、委員会は、本条によって提出されたすべての通報について、本条1項のもとで宣言を行い、かつ、この条約のいずれかの規定を侵害していると主張されている締約国の注意を喚起する。通報を受けた締約国は、6ヶ月以内に、問題を明らかにし、かつ、その国によってとられた救済措置がある場合には、それを明らかにする説明書または声明書を委員会に提出する。
5 委員会は、個人もしくはその利益を代表する者及び関係締約国から得られるすべての情報に照らして、本条によって受理された通報を検討する。
6 委員会は、本条による通報を検討する際には、会合を非公開とする。
7 委員会は、関係締約国及び個人にその覚書を送付する。
8 本条の規定は、この条約の締約国のうち10ヶ国が一項の規定に基づく宣言を行ったときに効力を生じる。宣言は、締約国が国際連合事務総長に寄託するものとし、事務総長は、その写しを他の締約国に送付する。宣言は、事務総長に対する通告によりいつでも撤回することができる。撤回は、本条の規定に従ってすでに送付された通報によるいかなる事案の検討をも妨げるものではない。事務総長が宣言の撤回の通知を受領した後は、当該締約国が新たな宣言を行わない限り、個人またはその利益を代表する者によるいかなる通報も本条のもとで受理されることはない。

第78条
 この条約の76条の規定は、この条約が対象とする領域において、国際連合及びその専門機関の基本文書またはこれらの機関によって採択される条約に規定されている紛争または苦情を解決するための他の手続きを妨げることなく、適用されるものとし、また、当事国間に効力のある国際の合意に従って紛争を解決するために他の手段に訴えることを妨げるものではない。

第8部 一般条項
第79条
 この条約は、締約国が移住労働者とその家族の入国を認める基準を設定する権利に影響を与えない。移住労働者とその家族の法的地位と処遇に関するその他の問題については、締約国はこの条約が定める制限に従う義務がある。

第80条
 この条約は、国際連合憲章の規定、及びこの条約が扱う事項にかかわって各々が負う職責を定める国際連合の諸機関及び専門機関の憲章の規定をそこなうものと解釈されてはなちない。

第81条 
1 この条約は、以下のものによって移住労働者とその家族により一層の権利と自由が認められているときに、それに影響を与えてはならない。
(a)締約国の法律または慣習
(b)締約国で効力を有する二国間または多国間条約
2 この条約のいかなる部分も、いずれかの国、集団、個人が、条約の定める権利と自由を害する行為を行う権利を含むものと解釈されてはならない。

第82条
 この条約が移住労働者とその家族に認める権利を廃棄することは許されない。その全部又は一部の権利を放棄させ、あるいは認めないままに放置させる目的で、移住労働者とその家族に圧力をかけることは、いかなる形のものであっても許容されてはならない。契約によってこの条約が認めた権利保障から逸脱することはできない。締約国は、以上の原則の尊重が確保されるよう、適切な措置をとるものとする。

第83条
 この条約の締約国は以下の措置をとる。
(a)この条約で認められた権利ないし自由を侵害された場合に効果的な救済がなされるように確保すること。侵害が公務に携わる者によってなされたときもこれから除外されることはない
(b)この種の救済を申し立てた場合、権限ある司法、行政、立法その他国内法の定める権限ある機関で主張を審査し、判断するように求める権利を確保し、司法審査の機会を拡大すること
(c)救済が認められたときに、当該の権限ある機関がそれを実行できるように確保すること

第84条
 締約国は、この条約の執行に必要な立法措置その他の措置を行う。

第9部 最終規定
第85条
 国際連合事務総長は、この条約の寄託者として指名される。

第86条 
1 この条約は、すべての国による署名のために開放しておく。この条約は批准されなければならない。
2 この条約はすべての国による加入のために開放しておく。
3 批准書または加入書は国際連合事務総長に寄託する。

第87条 
1 この条約は、20番目の批准書または加入書が寄託された日から3ヶ月を経過した翌月一日から効力を生じる。
2 条約が効力を生じた後に批准または加入する国については、当該の批准書または加入書が寄託された日から3ヶ月を経過した翌月1日から効力を生じる。

第88条
 この条約について批准または加入する国は、条約のいずれかの部の適用を免れることまたは いずれかの特別の形態の移住労働者への適用を免れることはできない。ただし、このことにより、条 約3条の適用は妨げられない。

第89条 
1 いずれの締約国も、自国に対してこの条約が効力を生じた日から5年の期間が経過したとき、国際連合事務総長にあてた書面の通告により、この条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、国際連合事務総長が前項の通告を受領した日から12ヶ月を経過した翌月1日から効力を生じる。
3 廃棄は、廃棄が効力を生じる日より以前に発生したいかなる作為または不作為についても、締約国を、この条約に基づく義務から免除するものではない。また、廃棄は、それが効力を生じる目の以前にすでに委員会により検討されている事案についても、その検討が継続することを妨げるものではない。
4 締約国の廃棄が効力を生じる日以後においては、委員会は、当該の国に関するいかなる新しい事案の検討も始めてはならない。

第90条 
1 この条約が効力を発してから五年の期間が経過した後は、いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた書面の通告により、いつでもこの条約の改正を求めることができる。事務総長は、この改正提案をすべての締約国に通知し、締約国による改正案の審議及び投票のための会議開催の賛否を通知するよう求めるものとする。事務総長からの通知後4ヶ月以内に締約国の3分の1以上が会議開催に賛成する場合には、事務総長は国際連合の主催のもとに会議を招集する。会議において、出席しかつ投票する締約国の多数決によって採択された改正案は、承認のために国際連合総会に提出される。
2 条約の改正は、国際連合総会で承認され、かつ、締約国のうち3分の2以上の国で、各々の憲法の定めるところにより受諾されたときに効力を生じる。
3 改正が効力を生じたときには、受諾した締約国はそれに拘束される。受諾していない締約国は、この条約及びそれ以前に行われた改正で自国が受諾しているものに拘束される。

第91条 
1 国際連合事務総長は、署名、批准、加入の際に行われた留保の書面を受領し、かつ、すべての国に送付する。
2 この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は認められない。
3 留保は、国際連合事務総長にあてた通告によりいつでも撤回することができるものとし、事務総長は、その撤回をすべての国に通告する。この通告は、受領された日に効力を生ずる。

第92条 
1 この条約の解釈または適用に関する締約国間の紛争で交渉によって解決されていないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日から6ヶ月以内に仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所規程に従って、国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
2 各締約国は、この条約の署名もしくは批准またはこの条約への加入の際に・前項の規定に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような宣言を行った締約国との関係において前項の規定に拘束されない。
3 前項の規定に従って宣言を行った締約国は、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでもその宣言を撤回することができる。

第93条 
1 この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とし、国際連合事務総長に寄託する。
2 国際連合事務総長は、この条約の認証謄本を、すべての国に対し送付する。

出典 http://homepage3.nifty.com/musubime/document/lawdoc/migrant.htmから抜粋・編集

 

 


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